よく知る顔にも、作者がいる
歴史上の人物を思い浮かべるとき、私たちは写真、絵、銅像をひとまとめにして「本人の姿」と考えがちです。西郷隆盛は、その違いを確かめる題材になります。顔の細部を推測する前に、まず目の前の画像が何という作品なのかを確認しましょう。
鹿児島県歴史・美術センター黎明館の「西郷隆盛像」は、肖像画の作者をイタリア人版画家キヨソネと紹介しています。画像を見ただけでは省略されやすい、作者という手がかりがここにあります。
また、鹿児島県立図書館の資料紹介では、西郷の肖像を展示資料として扱っています。同館は、キヨソネの1883年の肖像について、顔の上部に弟の従道、下部に従弟の大山巌を参考にしたと説明し、『西郷隆盛全集 月報1』を参考資料に挙げています。この説明の出所を示すことが、単に「合成画だった」と言うこととの違いです。
3種類の問いを分ける
| 問い | 調べる項目 | それだけでは分からないこと |
|---|---|---|
| これは何の画像か | 作品名、所蔵先、作者 | 本人との似かよい方 |
| いつ、どう作られたか | 制作年、依頼主、制作資料 | 作者が意図したことの全て |
| 後世にどう使われたか | 教科書・記念品・展示での使用例 | 当時の人全員の受け止め方 |
「本人がその場にいた記録」と「後から作られた肖像」は、同じ情報を持つわけではありません。一方、後世の作品だから調べる価値がないとも言えません。どのような人物像が選ばれ、伝えられたかを考える資料になります。
合成や家族の発言を確かめるには
西郷の顔については、親族をモデルにしたという説明や、家族が銅像を見て発言したという逸話がよく紹介されます。しかし、伝わっている話の存在と、その細部の確実性は別です。この記事では、誰がいつ記録したかまで示せない逸話を事実の根拠として採用しません。
調べる場合は、発言の原文、記録者、記録時期、後の引用で省略された部分を並べます。「似ていない」という短い言葉も、顔、服装、立ち居振る舞いのどれを指すかによって意味が変わります。画像だけで病歴や性格まで説明することも避けたいところです。
図版を使うときの記録欄
授業や制作ノートで人物画像を使うなら、次の5項目を画像と一緒に残してください。
- 作品名と作者。
- 制作時期。分からない場合は不明と記す。
- 所蔵機関と参照したページ。
- その画像から説明したいこと。
- 画像だけでは判断できないこと。
たとえば、この肖像から「キヨソネによる西郷像が伝わっている」と説明することはできます。一方、「本人の顔の寸法を正確に復元できる」という結論には、別の根拠が必要です。ゲームの人物画でも、史料に基づく部分と制作者の補った部分を分けて示すと、絵を入口にした調べ学習につなげられます。


